イチジク
Illustration Ficus carica0 clean.jpg
果実
分類
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: バラ目 Rosales
: クワ科 Moraceae
: イチジク属 Ficus
: イチジク F. carica
学名
Ficus carica L.[1]
和名
イチジク
英名
fig tree

イチジク(無花果、映日果、一熟[2])は、クワ科イチジク属落葉高木学名: Ficus carica)、またはその果実のことである。原産地はアラビア南部[3]。別名は、南蛮柿[4][5]

名称

無花果」の字は、花を咲かせずに実をつけるように見える[参 1]ことに由来する。中国で名付けられた漢語[6]、日本語ではこれに「イチジク」という熟字訓を与えている。中国で「映日果」は、無花果に対する別名とされた[6]

映日果」(インリークオ)は、イチジクが13世紀頃にイランペルシア)、インド地方から中国に伝わったときに、中世ペルシア語「アンジール」(anjīr[注 1]を当時の中国語で音写した「映日」に「果」を補足したもの[6]。通説として、日本語名「イチジク」は、17世紀初めに日本に渡来したとき、映日果を唐音読みで「エイジツカ」とし、それが転訛したものとされている[6][参 2]。 中国の古語では他に「阿駔[参 3]」「阿驛」などとも音写され、「底珍樹」「天仙果」などの別名もある[要出典]

日本には1591年天草に所縁のある神父ポルトガルリスボンから伝えたとされ、天草はイチジク発祥の地とされる[7][4][5]。 伝来当時の日本では、はじめ「唐柿(からがき)」、ほかに「蓬莱柿(ほうらいし)」「南蛮柿(なんばんがき)」「唐枇杷(とうびわ)」などと呼ばれた[8]。いずれも“異国の果物”といった含みを当時の言葉で表現したものである。なお現在でも天草地方ではイチジクを「南蛮柿」と表記する文化が残っている[7][5]

属名Ficusficus)はイチジクを意味するラテン語イタリア語: ficoフランス語: figueスペイン語: higo英語: figドイツ語: Feigeなど、ヨーロッパの多くの言語の「イチジク」はこの語に由来するものである。

形態・生態

日本ではせいぜい樹高3 - 5メートルほどに生長する樹であるが、条件が良ければ高さ20メートル、幹径1メートル以上にもなる落葉高木[8]

葉は大型の3裂または5裂する掌状で互生する[3]。日本では、浅く3裂するものは江戸時代に日本に移入された品種で、深く5裂して裂片の先端が丸みを帯びるものは明治以降に渡来したものである。葉の裏には荒い毛が密生する。葉や茎を切ると白乳汁が出る[3]

新枝が伸びだすと葉腋に花を入れた袋である花嚢がつく[3]。下のものから順に育ち、花嚢は果嚢となって肥大化する[3]。花嚢は倒卵状球形で、厚い肉質の壁に囲まれ、初夏に、花嚢の内面に無数の花(小果)をつける[3]。このような花のつき方を隠頭花序(いんとうかじょ)という。雌雄異花であるが、イチジク属には雌雄同株で同一の花嚢に両方花をつける種と雌雄異株で雄株には同一の花嚢に雌雄両方の花、雌株には雌花のみを形成する種がある[注 2]

栽培イチジクの栽培品種は結実に雌雄両株が必要な品種群が原産地近辺の地中海沿岸西アジアでは古くから栽培されてきたが、受粉して雌花に稔性のある種子が形成されていなくても花嚢が肥大成長して熟果となる品種もあり[3]、原産地から離れた日本などではこうした品種が普及している。イチジク属の植物は自然では花嚢内部にはイチジクコバチ英語版などのイチジクコバチ属Blastophaga spp.の蜂が共生しており雌雄異株の種では雄株の花嚢に形成される雌花の受精後の種子全てを、雌雄同株の種では花嚢内の雌花の柱頭の長短で2群に分かれるもののうち柱頭の短い型のものに形成される種子を幼虫時代の食物として繁殖し、雄花の花粉を体の花粉収納器官に収めた交尾後の雌が若い花嚢に潜り込み花粉を散布することで受粉を媒介する。日本で栽培されているイチジクはほとんどが果実肥大に日本に分布しないイチジクコバチによる受粉を必要としない単為結果性品種である。

ほとんどの種類の果実は秋に熟すと濃い紫色になり、下位の部分から収穫することができる[3]。甘みのある食用とする部分は果肉ではなく小果花托である。

利用

歴史

原産地に近いメソポタミアでは6千年以上前から栽培されていたことが知られている。地中海世界でも古くから知られ、エジプトギリシアなどで紀元前から栽培されていた[3]古代ローマでは最もありふれた果物のひとつであり、甘味源としても重要であった。最近の研究では、ヨルダン渓谷に位置する新石器時代の遺跡から、1万1千年以上前の炭化した実が出土し、イチジクが世界最古の栽培品種化された植物であった可能性が示唆されている[9]

日本には江戸時代初期、#名称節にもあるように、ペルシャから中国を経て、長崎に伝来した。日本に古く渡来したのが在来種で、のちに果樹として洋種が栽培されている[3]。当初は薬樹としてもたらされたというが、やがて果実を生食して甘味を楽しむようになり、挿し木で容易にふやせることも手伝って、手間のかからない果樹として家庭の庭などにもひろく植えられるに至っている。

食用

乾燥イチジク

果実は生食するほかに乾燥イチジク(ドライフィグ)として多く流通する[8][注 3]

生果・乾燥品ともに、パンケーキビスケットなどに練りこんだり、ジャムコンポートにしたり、スープソースの材料として、またワイン醸造用など、さまざまな用途をもつ。ほかにペースト、濃縮果汁、パウダー、冷凍品などの中間製品も流通している。日本国内では甘露煮にする地方もある。また、いちじくの天ぷらも流行している。

果実には果糖ブドウ糖蛋白質ビタミン類、カリウムカルシウムペクチンなどが含まれている。クエン酸が少量含まれるが、糖分の方が多いので、甘い味がする。食物繊維は、不溶性と水溶性の両方が豊富に含まれている。

薬用

熟した果実、葉を乾燥したものは、それぞれ無花果(ムカカ)、無花果葉(ムカカヨウ)といい生薬として用いられる[3]

6–7月頃に採取して日干しにした果実(無花果)には、水分約20–30%、転化糖約20–50%、蛋白質約4–8%、油脂油1-2%、有機酸酵素ビタミンCミネラルが含まれる[6]。イチジクには整腸作用があり[10]、果実を干したもの3–5個を600ミリリットルの水に入れてとろ火で半分まで煮詰めてかすを取り除いたものまたは、30分ほど煎じたものを1日3回に分けて服用して、便秘の緩下剤に使われた[6][11]。生の果実をそのまま1日2–3個程度を毎日食べ続けても同様の効果が期待される[6][11]。便秘のほかにも、滋養に利用されたり、痰の多い咳、のどの痛みや痔にも効能があるとされる[3][11]

7–9月頃に採取した成熟した葉を日干しさせた無花果葉には、蛋白分解酵素、血圧降下作用があるプレラレエンタンニンが含まれる[6]。風呂に入れて浴用に使われ、冷え性、肌荒れ、の出血止め、脱肛、腰痛、神経痛に効能があるとされる[3][6][11]

また果肉や葉から出る白い乳液にはゴムに近い樹脂分が含まれるが、民間薬として、(いぼ)に塗布したり[3][6]駆虫薬として内服した。正常な肌に乳液がつくと、かぶれやかゆみが起こることがある[3][6]

その他の利用

またイチジクの樹液にはフィシンという酵素が含まれており、日本の既存添加物名簿に収載され、食品添加物の原料として使用が認められている。ほかにイチジク葉抽出物は製造用剤などの用途でかつて同名簿に掲載されていたが、近年販売実績がないため、2005年に削除された。

長野県阿智村、喬木村などでは、イチジクの葉を風呂に入れ入浴剤とする伝統がある[12]

栽培

挿し木で繁殖させ、主に庭や畑で栽培される[3][11]。浅根性で、夏季の乾燥する時期は潅水を行って水を与える[3]。高温、多湿を好み、寒気、乾燥を嫌う。

アメリカでは並木仕立てにしている場合もある[8]。品種も数多く作出されていて、地中海沿岸地方やカリフォルニア地方などでは需要な産物になっている[8]

特産地

国際連合食糧農業機関によれば、2007年のイチジク生産量のトップ3はエジプトトルコイラン[参 4]。ほか地中海沿岸から南アジアにかけての比較的乾燥した気候の国々が名を連ねる中、6位に米国が、9位にブラジルが見えている。上位の国々は乾燥イチジクの輸出量も多く、とくにトルコ産、イラン産のものは有名である。日本は上記統計ではエジプトの約16分の1=16,500トン(推定)を生産し、14位にランクインしている。

日本

イチジクは農林水産省では特産果樹(主要果樹と比較すると重要度は低い果樹)として統計されている。しかしながら、もともと日本の温暖、湿潤な気候に適合していたことから、1960年代あたりから耕作放棄地、休耕田の活用や稲作、他果樹からの転作が進み、生産が増加した。[13]。近年収穫量が増加している品目の一つであり、年間収穫量は約16000トンと、一部の主要果樹より多くなっている。特に、高温多湿な西日本に産地が集中しており、愛知県のほか、関西地方に産地が密集する。一方で、比較的寒冷な地域でも栽培が行われるようになったことで、冷害による被害なども発生している。日本における主な特産地は全国地方公共団体コード順に次のとおり(産地は農林水産省資料特産果樹統計より参照し、公式webサイトなどで照合したもの)