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外見 | |||||||||||||||||||||||||
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![]() ![]() アルミニウムのスペクトル線 | |||||||||||||||||||||||||
一般特性 | |||||||||||||||||||||||||
名称, 記号, 番号 | アルミニウム, Al, 13 | ||||||||||||||||||||||||
分類 | 貧金属 | ||||||||||||||||||||||||
族, 周期, ブロック | 13, 3, p | ||||||||||||||||||||||||
原子量 | 26.9815386(13) | ||||||||||||||||||||||||
電子配置 | [Ne] 3s2 3p1 | ||||||||||||||||||||||||
電子殻 | 2, 8, 3(画像) | ||||||||||||||||||||||||
物理特性 | |||||||||||||||||||||||||
相 | 固体 | ||||||||||||||||||||||||
密度(室温付近) | 2.70 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||
融点での液体密度 | 2.375 g/cm3 | ||||||||||||||||||||||||
融点 | 933.47 K, 660.32 °C, 1220.58 °F | ||||||||||||||||||||||||
沸点 | 2792 K, 2519 °C, 4566 °F | ||||||||||||||||||||||||
融解熱 | 10.71 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||
蒸発熱 | 294.0 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||
熱容量 | (25 °C) 24.200 J/(mol·K) | ||||||||||||||||||||||||
蒸気圧 | |||||||||||||||||||||||||
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原子特性 | |||||||||||||||||||||||||
酸化数 | 3, 2, 1 (両性酸化物) | ||||||||||||||||||||||||
電気陰性度 | 1.61(ポーリングの値) | ||||||||||||||||||||||||
イオン化エネルギー | 第1: 577.5 kJ/mol | ||||||||||||||||||||||||
第2: 1816.7 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||
第3: 2744.8 kJ/mol | |||||||||||||||||||||||||
原子半径 | 143 pm | ||||||||||||||||||||||||
共有結合半径 | 121±4 pm | ||||||||||||||||||||||||
ファンデルワールス半径 | 184 pm | ||||||||||||||||||||||||
その他 | |||||||||||||||||||||||||
結晶構造 | 面心立方格子構造 | ||||||||||||||||||||||||
磁性 | 常磁性[1] | ||||||||||||||||||||||||
電気抵抗率 | (20 °C) 28.2 nΩ·m | ||||||||||||||||||||||||
熱伝導率 | (300 K) 237 W/(m·K) | ||||||||||||||||||||||||
熱膨張率 | (25 °C) 23.1 µm/(m·K) | ||||||||||||||||||||||||
音の伝わる速さ (微細ロッド) |
(r.t.) (rolled) 5,000 m/s | ||||||||||||||||||||||||
ヤング率 | 70 GPa | ||||||||||||||||||||||||
剛性率 | 26 GPa | ||||||||||||||||||||||||
体積弾性率 | 76 GPa | ||||||||||||||||||||||||
ポアソン比 | 0.35 | ||||||||||||||||||||||||
モース硬度 | 2.75 | ||||||||||||||||||||||||
ビッカース硬度 | 167 MPa | ||||||||||||||||||||||||
ブリネル硬度 | 245 MPa | ||||||||||||||||||||||||
CAS登録番号 | 7429-90-5 | ||||||||||||||||||||||||
主な同位体 | |||||||||||||||||||||||||
詳細はアルミニウムの同位体を参照 | |||||||||||||||||||||||||
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アルミニウム(羅: aluminium、英: aluminum, [ə.ˈluːmɪnəm])は、原子番号13の元素である。軽銀(けいぎん)、礬素(ばんそ)ともいう[2]。元素記号Al。原子量26.98。
軽銀(けいぎん)、礬素(ばんそ)とも呼ばれる。軽銀は、軽いことと、外見が銀に似ていることにちなむ。礬素は、ミョウバン(明礬)にちなむ[3]。
アルミニウムは、化合物のミョウバン(明礬、英: alum [ˈæləm])にちなむ。
アルミと略すことも多い。
単体は銀白色の金属で、常温常圧で高い熱伝導性・電気伝導性を持ち、加工性がよく、実用金属としては軽量であるため、広く用いられている。熱力学的に酸化されやすい金属ではあるが、空気中では表面にできた酸化皮膜により内部が保護されるため高い耐食性を持つ[4]。
単体は常温常圧では良好な熱伝導性・電気伝導性を持つ。融点660.32 ℃、沸点2,519 ℃(別の報告もある)。密度は2.7 g/cm3で、金属としては軽量である。常温では面心立方格子構造がもっとも安定となる。酸やアルカリに侵されやすいが、空気中では表面に酸化アルミニウムAl2O3の膜ができ、内部は侵されにくくなる。この保護現象は酸化物イオンO2−のイオン半径(124 pm)とアルミニウムの原子半径(143 pm)が近く、アルミニウムイオンAl3+(68 pm)が酸化物の表面構造の隙間にすっぽり収まることが深く関係している。また濃硝酸に対しても表面に酸化被膜を生じ反応の進行は停止する(不動態)[5][6]。陽極酸化による酸化被膜はアルマイトとも呼ばれる。
アルミニウムは両性金属で、酸にも塩基にも溶解する。塩基性の水溶液では、以下の反応によって水が還元されて水素を発生する。
ただし、生成する水酸化アルミニウムの溶解度積([Al3+][OH−]3)は1.92×10−32であり、ほとんど水に溶解しない。したがって、薄い塩基では皮膜が発生して反応が止まる。しかし、強塩基条件では水酸化アルミニウムが次式によって水溶性のアルミン酸を形成するため、反応は表面のみでなく内部まで進行する。
したがってアルミニウムと強塩基水溶液との反応はこれらの式を合わせて以下のようになる[6]。
アルミニウムは鉄の約35パーセントの比重であり、密度は2.70 g/cm3と低く金属の中でも軽量な方に属し、展性に富む。純アルミニウムは強度は低いが、ジュラルミンなどのアルミニウム合金はその軽量さ、加工のしやすさを活かしつつ強度を飛躍的に改善しているためさまざまな製品に採用され、産業界で幅広く利用されている(「#用途」を参照)。
アルミニウム合金は軟鋼などと違い、応力がかかったときの変形に降伏現象を示さない。それは侵入型固溶体である炭素によるコットレル雰囲気を持つ鉄合金とは違い、アルミニウム合金には置換型固溶体合金が多いことに起因する[7]。よって、構造設計などの計算を行う場合には、材料力学では降伏点の代わりに「0.2 %耐力」が代わりに用いられる。「0.2 %耐力」とは、応力をかけた際の永久ひずみが0.2パーセントになるときの応力である[8]。こういった特性のために、アルミは押し出し成形や摩擦攪拌接合に向いている。
アルミニウムは、鉱石のボーキサイトを原料としてホール・エルー法で生産されるのが一般的である。ボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理し、アルミナ(酸化アルミニウム)を取り出したあと、氷晶石(ヘキサフルオロアルミン酸ナトリウム、Na3AlF6)とともに溶融し電気分解を行う。
したがって、アルミニウムを作るには大量の電力が消費されることから「電気の缶詰」と呼ばれることもある。ちなみに、ホール・エルー法での純度は約98パーセントであるため、より高純度なアルミニウムを得るには三層電解法を使う。
アルミニウム1トンを生産するために消費される、材料および電力は以下の通りである[7][9]。なお、1トンあたりの電力使用量は銅で1,200 kWh、亜鉛で4,000 kWhであり[10]、アルミニウムの精錬には銅の約11倍、亜鉛の約3.5倍の電力が必要となる計算になる。
電力価格が高いためコスト競争に弱い[9]日本国内のアルミニウム精錬事業は、オイルショック後採算困難になり、大部分は国外に拠点が移った[7]。日本国内で原石(ボーキサイト)から製品まで一貫生産を行っていたのは、自前の水力発電所により自家発電を行っているため、低価格の電力が入手可能な日本軽金属(蒲原製造所・静岡市清水区)のみであったが、設備の老朽化と採算性の理由で2014年3月閉鎖された[11]。昭和電工社長の鈴木治雄は、座談会において「日本で製錬を行うのは、北海道でサトウキビを作るようなもの」と述べており[12]、いかに日本で精錬した場合のコストが高いかを比喩的に表現している。
ボーキサイトからアルミニウムを精練するのに比し、アルミニウム屑からリサイクルして地金を作る方がコストやエネルギーが少なく済む。そのため、回収された空き缶などをリサイクル原料とし、電気炉などを用いる形態で再生するケースは徐々に増えている。
アルミニウム屑を溶解するにあたっても、融点が約660 ℃と銅や鉄などの主要金属の中では低い方で、少ないエネルギーで行うことができる。ボーキサイトからアルミニウム地金を生産するのに比べ、アルミ缶からアルミニウム地金を生産するのはわずか3パーセントの電力消費で済む[13]。
こうした利点があるため、アルミニウムは日本国内においてもっともリサイクル化が進んでいる金属であり、アルミ缶のリサイクル率は94.7パーセント(平成24年度)にも達する[14]。こうしたことから、アルミニウムはしばしば「リサイクルの優等生」や「リサイクルの王様」と表現される。
順位 | 国 | アルミニウム 生産量 (万トン) |
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— | 世界合計 | 4930[15] |
1 | ![]() |
2330[15] |
2 | ![]() |
350[15] |
3 | ![]() |
294[15] |
4 | ![]() |
240[15] |
5 | ![]() |
210[15] |
6 | ![]() |
172[15] |
7 | ![]() |
168[15] |
8 | ![]() |
120[15] |
9 | ![]() |
96[15] |
10 | ![]() |
93[15] |
11 | ![]() |
81[15] |
12 | ![]() |
73.5[15] |
13 | ![]() |
61[15] |
14 | ![]() |
56[15] |
15 | ![]() |
50[15] |
15 | ![]() |
50[15] |
16 | ![]() |
42.5 |
— | その他 | 444[15] |
アルミニウムの生産量は2014年時点で4,930万トンに及ぶ。中国が約40パーセントを生産し、これにロシア、カナダを加えた3か国で生産量の過半数を占める。中国、ロシアはボーキサイト原産国でもある。ほかのボーキサイト原産国であるアメリカ、オーストラリア、ブラジル、インドも世界生産量のシェア10位以内に含まれる。一方で、ボーキサイトの世界4位の生産国であるギニアや同第5位のジャマイカでまったくアルミニウムが生産されていないように、ボーキサイトの生産とアルミニウムの精練工場との間にはそれほど強い関連性はない。
これに対し、電力供給とアルミニウム精錬工場との間には強い相関性がある。アルミニウムは精錬に非常に多くの電力を消費するため、ボーキサイトからの精練は電力の安い国で行われる傾向が強い。アラブ首長国連邦やカタールは豊富な石油を元にした火力発電で、またカナダやノルウェーは地形を生かした水力発電で、アイスランドは水力発電と地熱発電によっていずれも電力が安価であるため、アルミニウムの大生産国となっている。14位のモザンビークは、カボラバッサダムの豊富な電力に目をつけたBHPグループや三菱商事が精錬会社としてモザール社を設立し、2000年に工場が稼働し始めたことで大生産国となった。ここで精錬されたアルミニウムはモザンビークの総輸出額の50パーセントを占め[16]、モザンビークの基幹産業として同国の経済成長を支えている。
アルミニウムの消費量も中国が飛び抜けて多く、2014年には2,406万トンを消費して、全世界生産量5,005万トンのほぼ半分を消費している。消費量は次いで米国が多く、さらにドイツ、日本と続く[17]。
アルミニウム生産企業としては、カナダのリオ・ティント・アルキャン、ロシアのルサール(ロシア・アルミニウム)、アメリカのアルコア、中国の中国アルミニウムなどが特に大きな生産企業である。日本国内ではすでに精練は行われていないが、圧延や加工に関しては地金を海外から輸入したうえで盛んに行われており、日本軽金属やUACJ、神戸製鋼などがおもなメーカーとなっている。
アルミニウムは電気分解以外の手法でも製造が可能である。たとえばアルミナを2,000 ℃以下で炭素と反応させ、炭化アルミニウムを生成させる。これを2,200 ℃以上の高温部へ移動させ、今度はアルミナと反応させて金属アルミニウムと一酸化炭素に分離させる[18]。
化学式としては以下の通りである。
2つ目の反応では逆反応が起こらないように過剰な炭素が必要である。生成されたアルミニウムは一部揮発して反応ガス成分に含まれるが、大半はスラグの上層に液体で単離する。
一方、アルミニウムの純度を上げる精錬工程は、電力を消費する三層電解法に代わり電力を使用しない分別結晶法を採用することが可能である。粗製アルミニウム金属を融解し、これを局所的に冷却すると、純度の高いアルミニウムが初晶として晶出する。シリコン単結晶の引き上げ処理と原理的には同じである。この方法によって得られる精製アルミニウムの純度は99.98 - 99.996パーセントであり、三層電解法に迫る純度を得られる[19]。
現代では行われていないがアルミニウムの値段が金と同じと言われていた古い時代には塩化アルミニウムを金属カリウムで還元するテルミット反応でアルミニウムを製造していた。
後に金属カリウムよりもコストが安い金属ナトリウムで還元する方法が発明されると大幅にコストダウンした電気分解による金属ナトリウムの製造コストが下がるのに合わせてコストダウンが進んだ。
20世紀のうちにアルミニウム及びそれを主体とする合金は鉄鋼材に次ぐ主要金属材料としての地位を確立している。日用品も多く、非常に生活に身近な金属である。天然には化合物のかたちで広く分布し、ケイ素や酸素とともに地殻を形成するおもな元素のひとつである。自然アルミニウム(Aluminum、Native Aluminum)というかたちで単体での産出も知られているが、稀である。単体での産出が稀少であったため、自然界に広く分布する元素であるにもかかわらず発見が19世紀初頭と非常に遅く、上述のとおり精錬にも大きなエネルギーを必要とすることから産業的に広く使用されるようになるのは20世紀に入ってからと、金属としての使用の歴史はほかの重要金属に比べて非常に浅い。
アルミニウムの比重は鉄の3分の1程度と軽量であるために利用しやすく、また、軟らかくて展性も高いなど加工しやすい性質を持っており、さらに表面にできる酸化皮膜のためにイオン化傾向が大きい割には耐食性もあることから、一円硬貨やアルミ箔、缶(アルミ缶)、鍋、外構、エクステリア、建築物の外壁、道路標識、ガソリンエンジンのシリンダーブロック、自転車のフレームやリム、パソコンや家電製品の筐体など、さまざまな用途に使用されている。ただし大抵はアルミニウム合金としての利用であり、1円硬貨のようなアルミニウム100パーセントのものはむしろ稀な存在である。代表的なアルミニウム合金であるジュラルミンは航空機材料などに用いられているが、金属疲労に弱く、腐食しやすいという欠点を持つため、アロジン(クロメート処理)やジンククロメートで表面を保護し、定期的な点検で腐食部を早期に発見する体制を取ることが求められる。
2014年度において、日本のアルミニウム用途でもっとも大きかった用途は輸送用機械の製造であり、40.1パーセントを占める。次いでアルミサッシなどの建築用途が12.9パーセント、アルミ缶やアルミ箔などの容器包装用途が10.6パーセントを占め、この3分野がおもなアルミニウムの用途であるといえる[20]。
軽量で加工性もよいことから、軽さと強度の両立のため部材形状の工夫も求められる航空機ではアルミ合金が主流となった。冷戦中盤あたりまで、塗装まで削って軽量化したアルミの銀色の輝きは高速航空機の象徴であった(ただし20世紀末頃からさらなる性能向上の要求のため炭素繊維複合材料やチタン合金等の新素材の割合が増えつつある)。鉄道車両でも新幹線電車をはじめとして特急型電車や通勤型電車などでアルミ車体の採用例も多い。押し出し材を使って長大な部材を一体成型し、さらに連続溶接組立する低コスト化量産法が確立され、同一断面を保った16 - 25メートルに及ぶ車体を持つ鉄道車両では、生産性の面でメリットが大きい。なお、一時期自動車も航空機材料に倣うかたちでアルミ化の取り組みがあったが、一部メーカーの高級車やスポーツカーなど特殊な車種での導入に留まり、費用対効果を両立させるため、現在はアルミではなくハイテン材料(高張力鋼)の適用が進み、また炭素繊維の適用も始まっている[21]。軽量さが要求される高速船でもアルミが船体材料に選択されることがある。アルミ合金は軍事分野では装甲車輌や戦闘艦にも応用されているが、鉄鋼に比べて火災時の高熱や被弾に弱いため、軽量さを求められる小型の艦船や、自走砲など直接敵と交戦することを想定しない装甲車輌での使用が主流である。
構造材としての使用もある(アルミニウム構造)が、窓枠(アルミサッシ)やフェンス等、外構での使用が多い。工場での規格集中生産により高い精度で加工されており、また軽量であるため、建付けや現場での組み立てやすさ、基本的な耐候性が優秀で、1960年代以降急速に普及した。しかし、断熱性の問題から窓ガラスともども結露を生じやすく、近年は代替品として樹脂サッシや現代化された木製サッシが増えている[22]。
高圧送電線にもアルミニウム線が使用される。銅に比べ単位体積あたりの電気伝導度は劣るが、密度が低いため銅線よりも軽量に抑えながら断面積をより大きく取る(太くする)ことができ、単位質量あたりの電気伝導度で優り材料費でもほぼ拮抗する。このため支柱(送電鉄塔)のスパンが大きくなる高圧送電線の材料として有利である。
粉末になったアルミニウムは可燃物であり、粉塵爆発を起こす場合がある。アルミニウム粉は燃焼熱が大きく、燃焼するときにガスを生じないため熱が集積して高温となり、強い白色の光を発する。これを利用して火薬類に発熱剤として添加される。スペースシャトルの固体燃料補助ロケットでも燃料として使用された。アルミニウム粉の性質は表面積の大きさによって左右されるため、等級は粒度ではなく重量あたりの表面積を示す水面拡散面積で表示される場合が多い。粒度で表示されるような粒の大きいものは粒状アルミニウム粉(アトマイズドアルミニウム粉)と呼んで区別することが多い。
スラリー爆薬などの水湿状態の火薬に混ぜると、アルミニウムの表面で以下のような反応が起きて発熱し、水素が発生する。このため、アルミニウム粉の火災には水をかけることは禁忌である。
アルミニウム粉末は塗料に混ぜて使う場合もある。また、指紋の検出(おもに警察の鑑識課による捜査活動)などでアルミニウムの粉を使用することもある。
アルミニウム粉と酸化鉄(III)との混合物はテルミットと呼ばれ、マグネシウムリボンで着火すると激しく反応し、酸化アルミニウムおよび溶融鉄を生じる。この反応は鉄の溶接にも使われているテルミット反応である。鉄以外の金属の精錬(還元)にも応用される(テルミット法)。
日本の消防法では、150 μmの網ふるいを通過する量が50パーセントを超えるアルミニウム粉を第2類危険物と定めている。
スポーツ用自転車フレームの素材としては、炭素繊維より安価で鉄鋼より軽量なため主流の素材である(ただし価格面に加えて疲労強度=耐久性の問題から、多数を占める廉価な日常車や実用車では依然として鉄鋼が占めている)。
真性半導体であるケイ素に微量のアルミニウムを添加することにより、P型半導体が得られる。
軽量で熱伝導性に優れるため、調理器具にアルミニウム合金がよく利用される。熱伝導度についても銅に劣るが、銅よりも安価であるため広く使われる[6]。
俗に「銀ペン」とも呼ばれる銀色の塗料には、アルミニウムの微粉末が顔料として加えられている。耐食性があるため、橋梁などの建築物によく使われた。
人体へは摂取しても吸収される量は微量で、ほとんどはそのまま排出される。アルミニウムが体内でどのような役割を果たしているかは、まだよく分かっていない。人工透析に必要な透析液の作製に、未処理の水道水を用いていた時代に、水道水中の微量のアルミニウムを原因とする透析脳症が発症した。
そこから「アルミニウムがアルツハイマー病を引き起こす」という主張もなされたが、腎不全の患者に大量のアルミニウムが直接血液に流れ込むことで起こる透析脳症と異なり、アルツハイマー病患者の脳のアルミニウム蓄積量は患者以外と変わらない。腎臓が正常に機能し、アルミニウムイオンを排出することのできる成人が、通常の食生活で経口摂取するアルミニウムにより、アルツハイマー病を患うという根拠は乏しい[23]。
アルミニウムは長石および粘土鉱物などとして普遍的に存在するため、地殻を構成する元素としては酸素、ケイ素に次いで3番目に多い(クラーク数:7.56パーセント、重量比)。工業的に多彩な用途が見出される一方、酸性土壌中のアルミニウム含量は、植物の成長に影響する重要な要素である。農業や園芸における人工的な栽培環境では中性付近に調整された土壌を用いる場合が多いが、それでも有害なアルミニウムイオン(Al3+)が根の伸長成長を阻害することが知られている。
土壌中のアルミニウムは、pHが5.0を下回ると急激にイオン化して溶解度が高まり、pH3.5ではほぼ完全に溶存体となる。水溶化したアルミニウムイオンが農作物その他の植物に及ぼす害として、以下のようなものが知られている。
コムギやトウモロコシ、アジサイ、ソバ、チャノキなど一部の植物は、アルミニウム耐性を持つ(あるいは高アルミニウム環境にも適応し得る)ことが知られている。アルミニウムを無毒化するメカニズムはさまざまであるが、一般にカルボン酸(シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸など)を中心とした有機酸でアルミニウムイオンをキレートし、水溶性の錯体を形成する機構によるといわれている。
アルミニウム耐性に関与する遺伝子は最初にコムギにおいて発見された。耐性関連遺伝子はトウモロコシからも見つかっている。これらの植物においては単一の遺伝子によりアルミニウム耐性が実現されているが、すべての植物のアルミニウム耐性が同一の機構によるわけではないと考えられている[25]。
遺伝子組み換えによりアルミニウム耐性植物を作出する際、その遺伝子源として注目されているものに、土壌性のアルミニウム耐性菌がある。根粒菌として知られるRhizobiumもアルミニウム耐性菌の一種である。強酸性(pH3.0)高アルミニウム条件にて選抜されてくる菌はほとんどが糸状菌であり、アルミニウムの多い土壌ではこれらの生物が優占していると考えられる。以下はアルミニウム耐性菌を含む属の一部である。
アルミニウムの歴史は明礬の使用で始まった。明礬の記述が最初に文書に残されたのは、紀元前5世紀の古代ギリシア歴史家ヘロドトスによる記述だった[26]。古代人にとって、明礬は媒染剤、薬、そして(要塞を敵の放火から守るための)木の防火塗料であり、ウェットエッチングにも使用した[27]。十字軍以降、明礬は国際貿易の商品のひとつになり[28]、ヨーロッパの織物業では欠かせない存在になった[29]。明礬は15世紀中期にオスマン帝国が輸出関税を大幅に上げるまで、地中海東部からヨーロッパに輸出された。
ルネサンス初期まで、明礬の性質は不明のままだった。1530年ごろ、スイスの物理学者パラケルススは明礬をウィトリオル(硫酸塩)と区別し、「明礬の土の塩」であると主張した[注 1][30]。1595年、神聖ローマ帝国の医師、化学者アンドレアス・リバヴィウスは明礬と緑ウィトリオルと青ウィトリオルが同じ酸と違う土で構成されると示し[31]、明礬を構成した未発見の土の名前については「アルミナ」を提唱した[30]。1722年、神聖ローマ帝国の化学者フリードリヒ・ホフマンは明礬の土が別の種類であると信じると宣言した[32]。1754年、神聖ローマ帝国の化学者アンドレアス・ジギスムント・マルクグラフは硫酸で粘土を煮て、続いてカリを加えることで明礬の土を生成した[32]。
1824年、デンマークの物理学者、化学者ハンス・クリスティアン・エルステッドは金属アルミニウムの作製に成功したと主張した。彼は無水の塩化アルミニウムとカリウム合金で化学反応を起こさせ、見た目がスズに似ている金属の塊を得た[33][34]。彼は1825年に結果を発表、新金属のサンプルを展示した。1826年、「アルミニウムは金属の光沢があり、やや灰色で、かなり緩やかに水を分解する」と記述した。1827年、ドイツの化学者フリードリヒ・ヴェーラーはエルステッドの実験を再び行ったが、アルミニウムは発見できなかった。彼は後にベルセリウスに手紙を書き、「エルステッドがアルミニウムの塊と仮定したものは確実にただのアルミニウムを含有するカリウムである」と述べた[注 2]。彼は続いて似たような実験を行った。その内容は無水の塩化アルミニウムとカリウムを混ぜることであり、アルミニウム粉末の作製に成功した[34]。彼は研究を続け、1845年に小さなアルミニウムの塊を作製することに成功、その物性を記述した。しかし、ヴェーラーの記述はそれが不純物を含むアルミニウムだったことを示している[36]。ヴェーラーなどほかの科学者がエルステッドの実験を再現できなかったことは、エルステッドが金属アルミニウムの発見者とされない理由のひとつになり、逆にヴェーラーは1845年の実験の成功とその詳細が発表されたことで金属アルミニウムの発見者とされた[37]。
フランスの化学者アンリ・エティエンヌ・サント=クレール・ドビーユは、1854年にパリ科学アカデミーでアルミニウムの工業製法を発表した[38]。塩化アルミニウムはヴェーラーが使ったカリウムよりも便利で安いナトリウムでも還元することができるのであった[39]。その後、アルミニウム棒は1855年のパリ万国博覧会で初めて公開展示された[40]。1856年、ドビーユは数人のパートナーとともにルーアンの製錬所で世界初のアルミニウム工業生産を開始した[38]。1855年から1859年にかけてアルミニウムの価格は1パウンド500米ドルから40ドルまでと、10分の1以下に下落した[41]。しかし、ドビーユの製法でもアルミニウムの純度の高さが足りず、サンプルによって性質が異なった[42]。
アルミニウムの最初の工業(大規模)生産法は1886年にフランスの工学者ポール・エルーとアメリカの工学者チャールズ・マーティン・ホールが開発したホール・エルー法である。ホール・エルー法がアルミナをアルミニウムに変える手法である一方、オーストリア=ハンガリー帝国の化学者カール・ヨーゼフ・バイヤーは1889年にバイヤー法というボーキサイト(鉄礬土)をアルミナに純化する手法を発見した。現代の金属アルミニウム生産はバイヤー法とホール・エルー法に基づく手法を使用している。1920年にはスウェーデンの化学者カール・ヴィルヘルム・セーデルベリ(Carl Wilhelm Söderberg)率いる研究チームがホール・エルー法を改良した。
注釈
出典