エボラ出血熱
7042 lores-Ebola-Zaire-CDC Photo.jpg
エボラ出血熱の感染者 (Mayinga N'Seka) と彼女を見守る2人の看護師(1976年)。撮影の数日後、患者は重篤な内出血で死亡した。
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
感染症内科学[*]
ICD-10 A98.4
ICD-9-CM 065.8
DiseasesDB 18043
MedlinePlus 001339
eMedicine med/626
MeSH D019142
テンプレートを表示

エボラ出血熱(エボラしゅっけつねつ、: Ebola hemorrhagic fever[† 1][† 2]; EHF)は、フィロウイルス科エボラウイルス属ウイルス病原体とする急性ウイルス性感染症
ラッサ熱マールブルグ病クリミア・コンゴ出血熱と並ぶ、ウイルス性出血熱の一つ。ヒトにも感染し、感染後の治療開始が遅れると致死率は50-80%に上るとされる。
また、仮に救命できたとしても重篤な後遺症を残すことがあり、リスクグループレベル4ウイルスの一つである。現在では、エボラ出血熱患者が必ずしも出血症状を呈するわけではない[1]ことから、エボラ出血熱に代わってエボラウイルス病(エボラウイルスびょう、: Ebola virus disease[† 3]; EVD)と国際的に呼称[1]されている。

「エボラ」(: Ebola/Ébola)の名は、アフリカ大陸中部で発病者が出た地域を流れるエボラ川から命名された[2]

概要

エボラウイルスは大きさが80 - 800 nmの細長いRNAウイルスである。ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず、多種多様である。

初めてこのウイルスが発見されたのは1976年6月。スーダン南西部(現:南スーダン)の西エクアトリア州にある町ヌザラ (Nzara) で、倉庫番を仕事にしている男性が急に39度の高熱と頭や腹部の痛みを感じて入院した後、消化器から激しく出血して死亡した。その後、その男性の近くにいた2人も同様に発症して、それを発端に血液や医療器具を通して感染が広がった。最終的にヌザラでの被害は、感染者数284人、死亡者数151人というものだった。

そして、この最初の男性の出身地付近である、当時のザイールのエボラ川からこのウイルスの名前はエボラウイルスと名づけられ、病気もエボラ出血熱と名づけられた[2]。その後、エボラ出血熱はアフリカ大陸で10回、突発的に発生・流行し、患者の早期発見・治療開始が遅れると、致死率が50-80%に上るとされた。

他にイギリスでも感染患者が確認されており、ロンドン郊外のカンタベリーにおいて34歳女性が感染者として病院に搬送されたとされている[3]

他の多くのウイルスと異なり、免疫系を攪乱するデコイを放ち、生体の防御機構をほぼ完全にすり抜けるという特徴がある。これが驚異的な感染性の高さに繋がっている。また、体細胞の構成要素であるタンパク質を分解することで最強の毒性を発揮する。免疫系を操作して血管を攻撃させ破壊し、肝臓を始めとする全身の臓器を冒して発症者を死に至らしめる。そのため、エボラウイルスは世界保健機関(WHO)のリスクグループ4の病原体に指定されており、バイオセーフティーレベルは最高度の4が要求される[4]

原因

エボラウイルスのビリオン電子顕微鏡
エボラウイルスのライフサイクル

アフリカ中央部(スーダン、コンゴ民主共和国コンゴ共和国ガボンウガンダ)、西アフリカ(コートジボワール(アイボリコースト、象牙海岸。輸入1例)、ギニアリベリアシエラレオネナイジェリア)、南アフリカ(ガボンからの輸入1例)で発症している。またフィリピンでは、感染したカニクイザルが見つかっている(サルはアメリカ合衆国イタリアに輸出され、ウイルスが発見された。)。自然宿主の特定には至ってはいないが、コウモリが有力とされている[5]サルからの感染例はあるが、キャリアではなくヒトと同じ終末宿主である。また、現地ではサルの燻製を食する習慣があるため、これを原因とする噂があることも報道に見える[6]

2005年12月1日付の英科学誌『ネイチャー』にて、ガボンのフランスヴィル国際医学研究センターなどのチームの調査によると、オオコウモリ科のウマヅラコウモリフランケオナシケンショウコウモリ英語版コクビワフルーツコウモリ英語版等が、エボラウイルスの自然宿主とされ、現地の食用コウモリからの感染が研究論文で発表されている[7]

患者の血液、分泌物、排泄物唾液などの飛沫が感染源となる。患者およびその体液への濃厚な接触は問題であり、死亡した患者の遺体への接触からも感染する。

エボラウイルスの感染力は強いものの、空気感染をせず、感染者の体液や血液に触れなければ感染しない[8]。これまでに見られた感染拡大も、死亡した患者の会葬の際や医療器具の不足(注射器や手袋など)により、患者の血液や体液に触れたことによりもたらされたものが多く、空気感染はない[9]。患者の隔離に関する措置が十分に行われていれば、感染することはない。

確定していない要因

空気感染の有無
アメリカ合衆国レストンでのサルの商業輸入に際して顕在化し、その感染流行により特定されたサルを終末宿主とする「エボラ・レストン株」(現状ではヒトに対する病原性はない[10])は、空気感染の可能性を濃厚に具現する例として知られているものの、エボラ出血熱の人体間における空気感染の可能性について確定的に定義付けるものとは言えない[11]
最小の感染単位

傷口や粘膜にウイルスが入り込まないよう注意する必要がある。特に、人は自分の目・口・鼻を触りがち[13]であるため、それらに触らないよう気をつける必要がある[14]。また、人の触るドアノブやスイッチ、ハンドルなどはウイルスが付着しやすいため、汚れを落として消毒する必要がある[14][13]。手は石鹸を使って洗う必要があるが、無理な場合はアルコール分を60%以上含むハンドジェルも使用可能[15]

くしゃみはエボラ出血熱の症状にないが[16]、別の要因によって咳やくしゃみが起これば、感染する可能性があり、長期間の1メートル以内の近接で感染リスクは中程度とされている[16][17][14][18]。そのため、人ごみをできるだけ避け、具合の悪そうな人への1メートル以内への接近はなるべく控えることが望ましい。また、直接的接触(握手など)や屋内での長時間接触も感染リスクは低いとはいえ、なくはない[18]ので、できるだけ避けることが望ましい。

眼鏡やマスク(N95以上が望ましい)、手袋なども予防に使われているが、ウイルスの付着している表面には触らないよう注意が必要となる。

受容体のHSPA5 (GRP78) がエボラウイルスの感染に使われると特定されており[19]、HSPA5阻害剤の没食子酸エピガロカテキン緑茶などに含まれるカテキンの一つ)はエボラ感染予防に効果がある可能性がある。既に緑茶の飲用は、インフルエンザ対策として効果があるとされている[20]。ただし、鼻からの感染は予防できない。

感染者の嘔吐物、血、肉、唾液、粘液、排泄物、母乳精液などから感染するため[16]、見ず知らずのそれらに気をつける必要がある。また、ウイルスは大抵、湿った地中で生き延びるため、地面に触れないよう注意し、地面に触れたところは消毒する必要がある[21][22]

病院や患者宅のトイレの便座に気をつける必要がある[23]

米国ニューヨーク市は、初期症状の似るインフルエンザと区別しやすいよう、インフルエンザの予防接種を受けておくことを推奨している[24]

アメリカの医療従事者については2014年10月20日時点、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によって、が一切出ないようにすることが推奨されている。液体防護性のガウンエプロン、首回りを隠すサージカルフード、フルフェイスシールド、防塵マスク、二重手袋、液体防護性の足カバーの組み合わせが推奨されている[25]

日本においては、感染者との接触があるなど感染の可能性がある場合は、潜伏期間を過ぎるまで公共交通機関での移動やレストラン、食料品店、映画館などの人の集まる場所への外出を控え[26]、検温を朝夕二回して検疫所に報告し[27]、熱や症状の出た場合は地域の医療機関を受診するのではなく、最寄りの保健所に連絡して指示を仰ぐ必要があるとされている[28]

アメリカの一部のアメリカ陸軍などでは潜伏期間中も隔離措置が行われている[29][30]

犬はエボラ出血熱を発症しないものの、エボラウイルスに感染する可能性を否定できないため、患者のペットの犬は、安楽死が行われている[31]

感染者当たりの平均感染率を一人未満に抑えなければ、流行は終息できない[31]。新たな感染者を素早く見つけるために、感染者から接触者を聞き出す接触者追跡調査(コンタクトトレーシング)が行われている[32]。CDCは、見逃された一人の接触者が大流行(アウトブレイク)を引き起しうるとして、警告している[32]

ワクチン

2009年、実験動物に対しては東京大学医科学研究所教授(ウイルス学)の河岡義裕は、エボラ出血熱ウイルスのワクチンマウスに接種したところ、一定の効果を確認したことを米専門誌『ジャーナル・オブ・バイロロジー』電子版で発表した。この実験では、ワクチンを接種せずに感染させたマウス10匹は6日後に全て死亡したが、接種した15匹は、健康な3匹のマウスと同じように2週間以上生き続けたという。河岡は今後、サルで実験し、早期実用化を目指したいとしている[33]

2015年、ギニアで大規模なワクチンの臨床試験が行われ、2016年12月23日、世界保健機関は試験中のエボラ出血熱ワクチンについて有効性が確認されたことを発表した[34]2018年にコンゴ民主共和国の内陸部にある北キヴ州でエボラ出血熱が流行した際には、大規模なワクチン接種が実施された。2019年2月、同国保健省は終息の目途が立っていない段階ではあるものの、ワクチン接種の効果で死者数の増加を防げていると評価している[35]

消毒

消毒薬には、次亜塩素酸ナトリウムジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒が使われる[36]。金属製小物にはグルタラールなどが適す[36]アルコールも使用可能[36]

また、加熱消毒では、安全マージンを加えた60℃、60分間の加熱が使われる[37]。煮沸消毒でも、5分は必要となる。

ガンマ線照射12〜12.7 KGy (1.2〜1.27 × 106 rad) や紫外線照射でも消毒可能だが、紫外線照射の場合は有機物に取り込まれているエボラウイルスを不活性化できない[38][39]

検査

設備が整った施設がなくても、ウイルスの有無を確認できる検査キットが日本のデンカ生研により開発されており、アフリカの感染発生地に国際協力機構(JICA)を通じて提供されている[40]

バイオセイフティーレベル3の施設でもエボラ出血熱の疑われる患者の血液を検査できる。日本では国立感染症研究所ウイルス第一部第一室に検体を送ることでPCRを使ったエボラ出血熱の検査が可能だが、エボラウイルスの変異の確認、治療薬の効果の確認、患者の退院可能かの確認は不可能となっている[41][42]。なお、発症していても、陽性の結果が出るまでに、3日程度かかる場合がある[43]

第一種感染症指定医療機関には、微生物学的検査が可能な検査室の設置が義務付けられているが、エボラウイルスの検査については不明。エボラ出血熱に対応する海外病院の隔離病棟にあるオンサイトラボラトリでは、エボラの血液サンプルを扱えるところがある[44]

アメリカでは現在、バイオファイア・ディフェンス社の設備を導入した300以上の医療機関でエボラウイルスの検知が可能となっている[45]

危篤状態を終えて、血液からウイルスが検出されなくなっても、ドイツのケースでは、尿や汗からウイルスが検出され続けており、その後、尿から検出されなくなっても汗からのウイルスの検出が続いている[46][47]

症状

2000年にウガンダで流行した際の隔離病棟に収容された患者。
エボラウイルスを取り扱う研究者。BSL-4に対応した化学防護服を着用している。

潜伏期間は通常7日程度(最短2日、最長3週間以上[48][† 4])。WHOおよびCDCの発表によると、潜伏期間中は感染力はなく、発病後に感染力が発現する[49][50][† 5]

発病は突発的で発熱、全身倦怠感、頭痛筋肉痛関節痛などを生じ、腹痛嘔吐下痢結膜炎などの症状が継続する[51]

多くの患者は脱水症状播種性血管内凝固症候群(DIC)による多臓器不全が原因で死亡する。発病後の致死率は50-80%[51]。集団発生で致死率が90%に達したことがある[52]が、ウイルスの型によって異なる。致死率が高いのはザイール株[1]とされる。

症状としてエボラ出血熱に特徴的なものはなく[1]、鑑別が必要な疾患としては、ラッサ熱クリミア・コンゴ出血熱黄熱デング熱などの他の出血熱マラリアインフルエンザA型肝炎E型肝炎腸チフスパラチフス細菌性赤痢ペストなどがある[53]。また、出血熱の名の由来である出血症状は一部の患者にしか見られない。

治療

2019年段階でエボラウイルスに対するワクチンの有効性は見い出されつつあるものの(ワクチンの項で前述)、エボラ出血熱感染症に対して有効な医薬品などは確立されていない。しかし、複数の医薬品の臨床試験が行われている。エボラ出血熱に感染した後に回復した元患者には抗体があり、元患者の血液や血清の投与が有効な治療法とされている[† 6]。また脱水に対する点滴や、鎮痛剤及びビタミン剤の投与、播種性血管内凝固症候群 (DIC) に対する抗凝固薬等の投与が行われている[54][55]