ヒガンバナ
ヒガンバナ
リコリス、曼珠沙華とも呼ばれ
日本では秋の彼岸の頃に花開く
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ヒガンバナ科 Amaryllidaceae
亜科 : ヒガンバナ亜科 Amaryllidoideae
: ヒガンバナ連 Lycorideae
: ヒガンバナ属 Lycoris
: ヒガンバナ L. radiata
学名
Lycoris radiata
(L'Hér.) Herb.
シノニム

Nerine japonica Miq.
Nerine radiata Sweet

和名
ヒガンバナ(彼岸花)
英名
red spider lily
品種変種

ヒガンバナ(彼岸花、石蒜、学名 : Lycoris radiata[1])は、ヒガンバナ科[注釈 1]ヒガンバナ属多年草である。別名は曼珠沙華(マンジュシャゲ)、学名からリコリス・ラジアータとも呼ばれる。中国原産で、日本全国の道端や田んぼのあぜなどに群生し、秋の彼岸のころに、花茎の先に強く反り返った鮮やかな赤い花だけが咲き、夏の終わりに葉が伸びて秋に枯れるという、多年草としては珍しい性質を持っている。地下の鱗茎(球根)に強い毒性がある有毒植物であるが、かつて救荒作物として鱗茎のデンプンを毒抜きして食べられていた。

名前

学名の属名 Lycoris(リコリス)は、ギリシャ神話女神・海の精であるネレイドの一人リコリス(Lycorias)からとられ、種小名 radiata (ラジアータ)は「放射状」の意味で、花が完全に開いたときに放射状に大きく広がっている様子に因む[2]英語では、レッドスパイダーリリー(Red spider lily)、スパイダーリリー(Spider lily)などの花名がある[3]

彼岸花(ヒガンバナ)の名は秋の彼岸頃、突然に花茎を伸ばして鮮やかな紅色のが開花することに由来する[4][5]。別の説には、これを食べた後は「彼岸(死)」しかない、というものもある。

別名の曼珠沙華(マンジュシャゲ)は歌にも歌われたことでも知られ[6]梵語(サンスクリット語)で「赤い花」[7]「葉に先立って赤花を咲かせる」という意味から名づけられたといわれている[4]。サンスクリット語 manjusaka の音写であり、『法華経』などの仏典に由来する。また、法華経序品では、釈迦が法華経を説かれた際に、これを祝して天から降った花(四華)のひとつが曼珠沙華であり[7]、花姿は不明だが「赤団華」の漢訳などから、色は赤と想定されている。従って四華の曼陀羅華と同様に、法華経で曼珠沙華は天上の花という意味もある。

また、『万葉集』に見える「いちしの花」を彼岸花とする説もある(「路のべの壱師の花の灼然く人皆知りぬ我が恋妻は」、11・2480)。食用は一般的には危険であるが、毒を抜いて非常食とすることもあるので悲願の花という解釈もある。

日本では各地方のみで通じた異名が派生し、別名・地方名方言は数百から1000種以上あるといわれている[8][9]。葬式花(そうしきばな)[8]、墓花(はかばな)[8]、死人花(しびとばな)[3]、地獄花(じごくばな)[3]、幽霊花(ゆうれいばな)[3]、火事花(かじばな)[8]、蛇花(へびのはな)、剃刀花(かみそりばな)[3]、狐花(きつねばな)[3]、捨て子花(すてごばな)[3]、灯籠花(とうろうばな)、天蓋花[3]などがその例で、不吉な別名が多くある[7]。加えて、開花時に葉がなく、花と葉を同時に見られないことから、葉見ず花見ず(はみずはなみず)の別称もある[10][7]韓国では、サンチョ(相思華)とよばれ、「花は葉を思い、葉は花を思う」という意味がある[10][7]

分布・生育地

水田のあぜ道に群生するヒガンバナ

中国の原産[11][12]日本では北海道から南西諸島まで見られる。土手堤防あぜ道端墓地線路際など人手の入っているところに自生する[6][3]。特に田畑の縁に沿って列をなす時には花時に見事な景観をなす。湿った場所を好み、時に水で洗われて球根が露出するのが見られる。なお、山間部森林内でも見られる場合があるが、これはむしろそのような場所がかつては人里(里山)であった可能性を示す。仏教に由来する花であり、原種が彼岸の9月頃咲いたことから、かつては墓地や寺院などの周辺に植栽されている場合も多かった。また、その植生からモグラなどの 害獣対策として、田の畦に植栽されることもあった[8]

日本には中国大陸から有史以前に渡来したものと考えられており、現在では各地で野生化している[5]。その経緯については、稲作の伝来時に土と共に鱗茎が混入してきて広まったと言われるが、を掘る小動物(モグラネズミ等)を避けるために有毒な鱗茎をあえて持ち込み、土手に植えたと推測する意見もある[13]。また鱗茎は適切に用いればになり、また水にさらしてアルカロイド毒を除去すれば救荒食にもなる。

日本で繁殖しているヒガンバナは、染色体が基本数の3倍ある三倍体であり、正常な卵細胞や精細胞がつくられないため、いわゆる「種なし」になってしまい、一般に種子で増えることはできない[14]。種子を持つ植物と同様に、自ら生育地を広げる術を持たないため、人の手が一切入らないような場所に、突然育つことがない植物である[15]

ただし、中国には種子繁殖が可能で遺伝的に多様なコヒガンバナが自生し、それらが三倍体化することでいくつかのタイプのヒガンバナが存在する。このため、「中国で突然に生まれた三倍体のヒガンバナが日本に持ち込まれたのだろうと」と推察されている[14]

特徴

全草有毒多年生球根性植物[6]。地下にはタマネギのような小ぶりの鱗茎があり、卵状球形で外皮が黒く、下方にやや太くて白いひげ根がある[4][6]

花期は秋の彼岸のころ(9月中旬)で、土中の花芽は温度の変化だけを感じて季節を知り[7]、葉よりも先に地上から花茎を出して、散形花序で真っ赤な6弁の花を放射状(輪状)に数個つけて咲く[6][5]。その姿は独特で、高さ30 - 60センチメートル (cm) [3]もない花茎が地上に突出し、その先端にに包まれた花序が一つだけ付く。苞が破れると5 - 7個前後の花が顔を出す[16]。花は短いがあって横を向いて開き、全体としては全ての花が輪生状に外向きに並ぶ。花径は5 - 15 cmほどある[5]。一つの花には、花被片(花弁)が6個つき[16]、長さ40ミリメートル (mm) 、幅約5 mmと細長く、大きく反り返る[5]雄しべは6本、雌しべが1本あり、ともに花外に長く突き出る[6]。ヒガンバナのは5月中頃には鱗茎の中につくり、葉がなくとも地下にある鱗茎に蓄えた栄養分を使って花茎を伸ばし、地上から顔を出してから1週間ほどで花を咲かすことができる[17]

種子はできず、花後に花茎がなくなると(10月ごろ)葉が伸び出す[4][6][5]は線形で濃緑色で光沢があり、中脈と葉の裏側が白っぽい[6][5]。晩秋に鱗茎1個から長さ30 - 50 cm の細い葉をロゼット状に数枚出して、緑を保ったまま冬を越し、ほかの植物が葉を茂りだす初夏(4 - 6月ころ)に葉を枯らして、地上部は見えなくなる[4][6][10]

日本のヒガンバナは種子をつくらない、自然の中で生まれた三倍体植物の代表的な種である[14]。ただし、ふつうは結実することはないが、ごく稀に種子ができることもあるとも言われている[18]。種子をつくらない代わりに、土の中で球根をつくって株分けして繁殖してきたため、遺伝的には同一遺伝子をもち、同じ地域の個体は開花期や花の大きさや色、草丈がほぼ同じように揃う[14]

変種・園芸品種

稀に色素形成異常で白みがかった個体[注釈 2]もある。開花終了の後、三倍体(3n = 33)のため不稔性であるが、変種のコヒガンバナ(Lycoris radiata var. pumila)は二倍体(2n = 22)で稔性があり、他の種との交配により多様な園芸品種が作出されていて、花色が深紅色、紫色などのものがある[5]

有毒性

有毒植物として知られており、特に鱗茎に作用の激しいアルカロイドを約0.1%含んでいる[4]。アルカロイドは、リコリン50%、ガランタミンセキサニンホモリコリンなどを多く含む[4]。リコリンの語源はヒガンバナ属の学名「リコリス」に由来するもので[8]、経口摂取すると流涎(よだれ)や吐き気、腹痛を伴う下痢を起こし、ひどい場合には中枢神経麻痺を起こして苦しみ[4]、最悪の場合はに至ることもある。

日本では水田の畦や墓地に多く見られ、人為的に植えられたものと考えられている。その目的は、畦の場合はネズミモグラなど田を荒らす動物がその鱗茎の毒を嫌って避ける(忌避)ように、墓地の場合は虫除け及び土葬後、死体が動物によって荒されるのを防ぐため[注釈 3]とされる。モグラは肉食のためヒガンバナとは無縁という見解もあるが、エサのミミズがヒガンバナを嫌って土中に住まないために、この草の近くにはモグラが来ないともいう。

鱗茎はデンプンに富む[11]。鱗茎に含まれる有毒成分であるリコリンは水溶性で、すり潰して長時間水に晒すと毒を抜いて無害化が可能であるため、食べることができた[7]。しかし、毒性が強いため、どの程度さらせば無毒化して安全に食べられるのかについての定説は見当たらない[8]。古い時代に飢饉の際の飢えを救ってきた救飢植物として、食料とするため各地に植えられたと考えられている[8][16][7]第二次世界大戦中などの戦時や非常時において食用とされたこともある[注釈 4]。また、花が終わった秋から春先にかけては葉だけになり、その姿が食用のノビルアサツキに似ているため、誤食してしまうケースもある。

鱗茎は石蒜(せきせん)という名の生薬であり、漢名にもなっている[6]。葉が枯れ始めたころに鱗茎を掘り上げて、ひげ根を取り除いて水洗いしたもので、往年は製薬原料に用いられた[4]。民間では、外用薬としての利用法が知られ、肋膜炎腹膜炎腎臓病などの水腫に、球根をすりおろして、トウゴマ(別名:ヒマ)を一緒にすり鉢で砕いてすり混ぜて、両足裏の1面に布などに塗りつけて湿布し包帯を巻いておくと、利尿作用によりむくみを取り去ることに役立つとされる[4][6]。ただし利尿や去痰作用があるが、有毒であるため素人が民間療法として利用するのは危険である。毒成分の一つであるガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されている。

その他

季語花言葉
秋の季語。
花言葉は「情熱」[3]「独立」[3]「再会」[3]「あきらめ」[3]「悲しい思い出」[19]「旅情」[5]である。
迷信
花の形が燃え盛る炎のように見えることから、「家に持って帰ると火事になる」[8]や「曼珠沙華を採ると家が火事になる」[7]ということがある。その理由は、有毒植物であることから、子供がヒガンバナに触るのを戒めるための言い伝えだと考えられている[8]
アレロパシー
アレロパシー効果で他の植物の成長を阻害する。
県花
  • 埼玉県日高市にある巾着田 : ヒガンバナの名所として知られる[注釈 5]。ヒガンバナの名所は多数あるものの、雑木林の中にある曼珠沙華の群生は希少である[20]。例年は9月後半から10月上旬まで、500万本のヒガンバナが咲く[21]。巾着田の最寄り駅である西武池袋線高麗駅に多数の臨時列車が停車したり、彼岸花のヘッドマークをあしらった列車を運行したりする。
  • 神奈川県伊勢原市にある日向薬師付近 : 100万本のヒガンバナが咲く。
  • 愛知県半田市矢勝川の堤防 : 300万本のヒガンバナが咲く[22]。近くに新美南吉記念館があり、新美南吉作『ごんぎつね』の舞台として有名である。
  • 岐阜県海津市津屋川の土手 : 3kmにわたり10万本のヒガンバナが自生する。
  • 岡山県岡山市南区の児島湖花回廊:花回廊ゴルフコース内にある自然緑地に約55万球のヒガンバナが咲く。
  • 広島県三次市吉舎町辻の馬洗川沿い : 第12回広島県景観会議「景観づくり大賞」の「地域活動の部」で最優秀賞を受賞。また、講談社『週刊 花百科』2004.9.16号で、ヒガンバナの名所全国ベスト10に選ばれた。
  • 長崎県大村市の鉢巻山展望台 : 360度の眺望が広がる鉢巻山の山頂に、約100万本のヒガンバナ群落が咲く。期間中、鉢巻山彼岸花祭りが開催されている。
  • 埼玉県秩父郡横瀬町にある寺坂棚田 : 棚田の畦に100万本のヒガンバナが咲く。横瀬町のシンボル武甲山と黄金の稲穂のコントラストが美しい[独自研究?]西武秩父線横瀬駅より徒歩15分。

近縁種

ショウキズイセン鍾馗水仙、Lycoris traubii W.Hayw.[1]
ヒガンバナに似た別種で、葉の幅が広い点などに違いがある。またこの種は結実する。
シロバナマンジュシャゲLycoris ×albiflora Koidz. [1]
ヒガンバナの色違いのような白い花を咲かせる。花弁がさほど反り返らず、やや黄色みを帯びる。葉もやや幅広い。一説には中国のショウキズイセンと、種子をつくる種のヒガンバナの雑種であるともいわれている[23]。しかし、赤い花を咲かせるヒガンバナは種子作らないということならば交雑してできたという説明が矛盾をはらむため、赤い花を咲かせるヒガンバナが突然変異を起こして、白色のヒガンバナが生まれた可能性もあるとする説もある[24]

ヒガンバナを題名とした作品

花の鮮やかさ、毒性や死を連想させる名前などから、様々な創作物の題名に使われている。