ラディオドンタ類
生息年代: Cambrian Stage 3–Lower Devonian[1][2]
20191201 Radiodonta Amplectobelua Anomalocaris Aegirocassis Lyrarapax Peytoia Laggania Hurdia.png
様々なラディオドンタ類
左上:アンプレクトベルア、右上:アノマロカリス、左中:エーギロカシス、右中:ペイトイア、左下:ライララパクス、中下:カンブロラスター、右下:フルディア
地質時代
古生代カンブリア紀第三期 - デボン紀前期(約5億2,100万 - 4億年前)[1][2]
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: ステムグループ[3]
節足動物門 Arthropoda [4][5][6][7]
: †(和訳なしDinocaridida [8]
: ラディオドンタ目
(放射歯目)Radiodonta
学名
Radiodonta
Collins, 1996 [8]
和名
ラディオドンタ類
放射歯類
(広義の)アノマロカリス類 [注釈 1]
英名
Radiodont
Radiodontan
Radiodontid
Anomalocarid
Anomalocaridid [注釈 1]
下位分類群
本文も参照

ラディオドンタ類[9][10][11][12](放射歯類[13]:radiodont, radiodontan, radiodontid、学名Radiodonta[8])は、基盤的な節足動物と考えられる古生物分類群である[3][14][1][15][16]分類学上はラディオドンタ[10](放射歯目[13][17])とされる。アノマロカリスだけでなく、ペイトイアフルディアアンプレクトベルアなどをも含んだ多様なグループである[18]

頭部には甲皮複眼放射状の歯関節に分かれた前部付属肢、柔軟な胴部にはと対をなしに並んだ鰭(ヒレ)という独特な特徴の組み合わせをもつ動物である[19][20]。30以上が知られ、その生態は活発な肉食性から穏やかな濾過摂食性まで多岐にわたったと考えられる[18][6][21][22][19][20][23][24][25]

世界中の堆積累層から化石が見つかり、カンブリア紀(約5億年前)の種類を中心とする分類群であるが、オルドビス紀(約4億8,000万年前)とデボン紀(約4億年前)に生息したものもわずかに発見される[2][6]。その形態学上の復元と分類学上の位置付けは多くの議論が繰り広げられ、節足動物の起源と初期系統発生を示唆する重要な分類群の1つである[26][27][28][5][6][3][14][1][15][16]

本群は一時期ではアノマロカリス類[29][30][31][17][32](anomalocaridid, anomalocarid)[注釈 1]と総称されてきたが、これはかつて本群の全ての構成種が、そのうちのアノマロカリス科Anomalocarididae)のみに含まれた経緯の名残である(後述)[33][8][28][34][35][36][5][6][37]

名称

本群の学名Radiodonta」はラテン語の「radius」(輪状・放射状)と「odoús」(歯)の合成語であり、本群に見られる放射状の口器(oral cone)に因んで名付けられた[8]。しかし、このような口器は本群に特有するわけではなく[38]、また本群の中でこのような口器を欠くと考えられる種類もある[7][39]後述参照)。

本群はアノマロカリスとそれに類する古生物をまとめる同時に、オパビニアやそれ以外の節足動物から区別できるように Collins 1996 によって創設された分類群)である[8]。ただし1990年代から2010年代前期にかけて、本群の全ての構成種はそのうちのアノマロカリス科Anomalocarididae)のみに含まれたため、本群は長らくそれに因んで一般に「アノマロカリス類」(英語anomalocaridid中国語奇蝦類)と総称された[33][8][40][28][34][41][35][36][30][31][5][6][37][17][21]

Vinther et al. 2014 [18]以降では、本群に新たな3つのアンプレクトベルア科[42]タミシオカリス科[43]フルディア科[22])を追加されることにより、大部分の構成種はアノマロカリス科から除外され、これらの新しい科に再分類された[18]。そのため、本群は学名に応じて「ラディオドンタ類」(英語:radiodont, radiodontan、中国語:射口類)と一般に総称されるようになったのは、この分類体系が流用されるようになった2010年代後半以降である[3][44][21][9][45][46][47][48][7][49][50][39][51][22][43][19][10][11][52][53][12]。同時に、それ以前に用いられたアノマロカリス科由来の総称(日本語の「アノマロカリス類」・英語の「anomalocaridid」・中国語の「奇蝦類」)も本群全般には及ばず、アノマロカリス科に含める種類のみを指す総称として狭義化されつつある[54][7][55][19][10][56][23][57][12]

一般に広く用いられた前述の総称以外では、稀に英語で「radiodontid[8]もしくは「anomalocarid[40][35][18] 、日本語で「放射歯類[13]」と呼ばれることもある。

形態

全身化石が知られるラディオドンタ類の種のサイズ測定図

ラディオドンタ類は体長30-50cm程度の大型種を中心とする分類群であり[22]、1mを超える巨大種[6]や10cmを満たさない小型種[5][44]もいくつか発見される[22]。既知最大のものは2mの巨体をもつと推測されるエーギロカシスで、最小のものは体長8cm以下のライララパクスにあり[22]、特に後者の1種 Lyrarapax unguispinus の幼生では体長1.8cmしか及ばない[50]

上下に扁平もしくは円柱状に近い体型をもつ[35][47][20]体節制があり、前後で大まかに分節のない頭部(head)と、数節から十数節を含んだ胴部(trunk)として区分される[8]。頭部は所々に硬質の部位(前部付属肢甲皮)をもつが、胴部の表皮(クチクラ)は柔軟で、通常の節足動物に見られる外骨格背板腹板)ではない[3][19]。また、本群として認められる種類に限れば、胴部には脚およびそれに似た構造は存在しない[注釈 2][4][6]

ラディオドンタ類は、基本として以下の特徴の組み合わせで他の動物から区別される[19][23]

ラディオドンタ類におけるアノマロカリス(1枚目)とフルディア科(2枚目)の前半身の外部形態。A:背側、B:腹側、Fa:前部付属肢、He:頭部の背側の甲皮(H-element)、Pe:頭部の両側の甲皮(P-element)、Ey:複眼、Oc:歯(oral cone)、Af:"首"の鰭、BfとVf:胴部の腹側の鰭、Df:胴部の背側の鰭、Sb:鰓らしき構造体(setal blade)
  • 頭部:
    • 前方は関節肢である1対の前部付属肢(frontal appendages)をもつ。
      • 前部付属肢の内突起(endite)は補助的な分岐(auxiliary spine)をもつ(例外あり[56])。
    • 3枚の甲皮(head sclerite complex)が頭部の背側(H-element)と左右(P-elements)を包む。
    • 腹側の口は放射状に並んだ数十枚の歯でできた口器(oral cone)をもつ(例外あり[39])。
    • 両背側は眼柄に付属した1対の複眼をもつ(例外あり[53])。
  • 胴部:
    • 前の3-4節は「首」として短縮し、残りの部分は後方ほど胴節が幅狭くなる。
    • 胴節ごとに対になった(ヒレ、body flaps)をもつ。
    • 胴節ごとにのような櫛状の構造体(setal blades)をもつが、胴節本体のみを覆い、鰭までには貼り付けない。
    • 体節の境目は存在するが、表皮は軟質で、硬質の外骨格や関節はない。

前部付属肢

アノマロカリス科アノマロカリスの前部付属肢。長い触手状で能動的な関節をもつ。
フルディア科の未命名種(cf. Peytoia[23])前部付属肢対。熊手様の立体構造が示される。
アノマロカリス科/アンプレクトベルア科(1枚目)とフルディア科(2枚目)のラディオドンタ類におけるそれぞれの前部付属肢の基本外部形態。前者は顕著な節間膜と長短を繰り返した内突起、後者は内側に湾曲した5本以上の長い内突起が特徴的である[55]

ラディオドンタ類の代表的な特徴である触手様の器官は一般に前部付属肢[30]Frontal appendage)と呼ぶ。一部の文献では「claw[8]」("爪")・「feeding appendage[21]」("摂食用の付属肢")・「grasping appendage[33]」("物を掴む用の付属肢")とも呼ばれ、2000年代ではメガケイラ類大付属肢と共に「great appendage[58][59]」("大付属肢")扱いともされてきたが、両者はお互いに別系統で、特にそれぞれの付属肢の相同性が疑問視される以降(後述大付属肢#経緯も参照)、この総称は徐々にラディオドンタ類の前部付属肢に用いられなくなった[60]

前部付属肢はラディオドンタ類の唯一の関節肢節足動物関節外骨格をもつ付属肢)であり、の直前に左右2本をもち、十数節前後[注釈 3][23]の肢節(podomere)に分かれ[6][57]、上下(一部の種類[注釈 4]は左右[34][48][23])に動ける[34][43]。前部付属肢は基本として前後で基部1-3節でできた柄部(shaft[39][55], peduncle[22], base[56], promixal region[22])と、残りの十数節前後[注釈 5][23]でできた捕獲用の部分(distal articulated region[39][55], claw[56])として区別され、腹側は多くの肢節ごとに1本もしくは1対の内突起(endite[55], ventral spine[4], inner spine[60])がある[43][55]。ほとんどの内突起は、往々にして補助的な分岐(auxiliary spine[55], secondary spine[25])が前後もしくは前縁のみに生えている[19][23]。また、先端の数節が前向きに出張った背側/外側の棘(dorsal spine[55], outer spine[60][23])をもつ場合もほとんどである[51][55]。一部のフルディア科の種類[注釈 6]は内側に更に一列の棘(gnathite[23], medial spinous outgrowth[19], medial spine[25])をもつ[61][34][19][23]が、これは元々対になった内突起のうち内側の列から変化したものと考えられる[23]

前部付属肢の形態、特にその内突起は種類によって構造が異なり、それぞれの生態と系統関係を示唆する部分として重要視される(食性下位分類を参照)[34][51][55][56][23][24]。例えばアノマロカリス科は長い触手状で[4]アンプレクトベルア科は屈曲した柄部の直後に強大な内突起があり[44][7]フルディア科は立体的な熊手状で途中に5本以上の長いの内突起をもち[19][23][62]タミシオカリス科は細長い内突起に密集した分岐が並んでいる[18][6]

肢節の数・内突起の長さ・関節丘(肢節の境目の左右にある連結部)の位置・腹側の節間膜(各肢節の境目にある柔軟な表皮)の面積などの要素は、前部付属肢の可動域に大きく関与すると考えられる[61][8][34][18][48][43][24]。肢節数が多い・内突起が短い・節間膜の面積が広いほど可動域が高く、逆の場合ほど可動域が低く、一定の形を維持していたと推測される[34][24]。関節丘の位置が高いほど腹側に折り曲げる、低いほど背側に反り上げることができたと考えられる[24]。また、前部付属肢の基部の端、すなわち頭部との連結部は往々にして不明瞭に保存されたため、この部分の表皮は柔軟で、様々な方向に動けたと考えられる[24]

前部付属肢は硬質の外骨格に覆われるため、ラディオドンタ類の様々な器官の中では往々にして保存状態が最も良好な部分である。そのため、ラディオドンタ類の中で、未だにほぼ前部付属肢のみによって知られる種類が多い[注釈 7]記載種の発見状態を参照[45][48][55]

頭部の甲皮

様々なフルディア科の種類の甲皮

ラディオドンタ類の頭部には甲皮に特化した硬い表皮組織(head sclerite complex[52], head carapace complex[19], carapace complex[23], head sclerite[63], cephalic carapace[4])がある。これは大まかに3つの部分に構成され、中央の1枚(H-element[35], head shield[5], dorsal carapace[4], dorsal plate[63], anterior sclerite[50], central element[22])は頭部の背側、残りの2枚(P-element[35], lateral sclerite[50], lateral element[22])は頭部の左右を包み、後者は原則として前上方の突出部(P-element neck[19], beak[35])を介して頭部の正面で連結する[7][45][63][19]

この甲皮は、大まかに体に対して小さく楕円形のものと、大きく不規則なものという2つのタイプに区別される[19]。前者は小さな頭部をもつアノマロカリス科アンプレクトベルア科と一部のフルディア科、後者は巨大な頭部をもつ大部分フルディア科の種類に見られる[19]。中でも後者の甲皮は大きいだけでなく、形態もかなり多様である[64][52][25]。このような甲皮の形の分化は、種類によって前部付属肢の動き・遊泳中の機動性・食性・防御などの生態学生理学的要因に関与すると考えられる(後述参照[45][19][25]

かつて、このような構造体はフルディアに特有と考えられてきた[28]が、後に再検証や新たな化石証拠で他の多くのラディオドンタ類にも見られるようになり、本群全般の共有形質であると判明した[45][19]。それぞれの甲皮の通称である「H-element」と「P-element」はこの経緯の名残で、背側の甲皮を基に命名されたフルディアの学名Hurdia」と、かつて別生物として命名されたフルディアの左右の甲皮を指す学名「Proboscicaris」(プロボシカリス)に由来するものである[35][22]

ラディオドンタ類のは、前部付属肢の付け根と甲皮より後ろの頭部の両背側に配置され[35][19]、たくさん(知られるものでは13,000個から24,000個[53])の個眼に構成された1対の複眼(compound eye)である[65][5][53]。この複眼は、原則として可動であったと考えられる[4][66]眼柄を介して突き出しており、その付け根は背側と左右の甲皮の境目に隣接される[35]。ただし、少なくとも "Anomalocaris" briggsi の複眼は頭部に密着し、眼柄はなかったと考えられる[53]

頭部の甲皮にあわせて、眼の位置もラディオドンタ類の系統によって異なる[8][19][23]アノマロカリス科アンプレクトベルア科の種類の場合、眼は比較的に頭部の前端近くにあるが、巨大化した頭部をもつフルディア科の種類では、眼は頭部の両後端という、前部付属肢や口からかけ離れた位置に配置される[19][23]

口と歯

様々なラディオドンタ類の歯

ラディオドンタ類のは、原則として「oral cone」という丸みを帯びた円錐状の口器をもつ[67]。頭部の腹面、前部付属肢の付け根の直後にあり、放射状に並んだ数十枚の歯によって構成され、パイナップルの輪切りに似た造形をもつ[67]。そのうち最も発達した歯は4枚で典型的な十字放射(フルディア科ライララパクス)、または3枚で三放射(アノマロカリス)に配置するものが知られる[67][4][49]。歯の内側に棘があり、表面は種類によって滑らかなものから隆起や筋を生えたものがある[67][49][52]フルディアカンブロラスターの場合、開口の奥には咽頭由来と考えられる[38]ノコギリ状の多重構造が追加される[35][19]

この口器は単離した化石においても、しばしば前部付属肢の基部に隣接した状態で保存されることがある[23][57]。そのため、ラディオドンタ類のこの口器は、生きている状態では何らかの組織で前部付属肢の基部に連結していたと考えられる[23]

「放射状の歯」を意味する本群の学名「Radiodonta」は、この口器の放射状の構造に由来する[8]。しかしアンプレクトベルアラムスコルディアの場合、歯の構造は不明確であるが、放射状ではなかったと考えられる[7][39]。また、このような口器は本群に特有するわけでもなく、パンブデルリオン[68]葉足動物(例えばメガディクティオン[69]環神経動物(例えばエラヒキムシ[33][70]など他の脱皮動物からにも似たような口器が確認される[38][24]

Setal blades

所属不明のラディオドンタ類(?Amiella ornata[71][35])の胴部化石。胴節ごとに櫛状の構造体が並んでいる。

ラディオドンタ類のほとんどの体節の背面には「setal blades[6]」(setal structures[52], lamellae[19], gill blades[25])という、を思わせる櫛状の構造体が並んでいる[72][33][70][28][35][4][6][19][52][20]。これは無数の「lanceolate blades」という細長い葉状の附属体に構成されており、管状の内部構造がそれぞれの lanceolate blades の前縁部付近を貫通して繋がっていたと思われる[6]。この部分は、種類によって正中線から左右に区切られて対になる[注釈 8]、もしくは左右が完全に会合して一面の構造体になっている[注釈 9][6]。背側の鰭(後述参照)が存在する場合、この構造の両端はその基部に接続していたと考えられる[6]。また、保存状態の良い化石から、それぞれの lanceolate blade の表面には表面積を増した皺のような構造をもつことが分かる[6]。なお、「首」として集約される前方の胴節では、setal blades が見当たらない[4]、もしくは退化的である[28][35][19]

この構造体は付属肢から枝分かれた部分と考えられ[26][73][6]、ディオドンタ類の近縁とされるオパビニアにも見られるが、オパビニアとは異なり、ラディオドンタ類のこの構造体は胴節本体のみに付属し、鰭の表面までには貼り付けない[70][6]パンブデルリオンケリグマケラの鰭の表面にある繊毛状の構造や、他の節足動物の外葉(exite、付属肢の付け根にある外側の柔らかい分岐)は、この構造体に相同と考えられる[26][6][74][75]

多くのラディオドンタ類の部位と同様、これも遺骸脱皮殻から脱落しやすい構造体と考えられる[28]フルディア科のは比較的によく発見される[28][35][6][19][52][20]のに対して、アノマロカリス科アンプレクトベルア科は全身化石においてもこの構造体を保存した場合は稀である[4][7]。また、この構造体は90年代から既にラディオドンタ類全般の共有形質であると判明した[76][77][78][33][70]にもかかわらず、それ以降でも多くのラディオドンタ類の復元図において、この構造体が復元されていない場合が多い[79][80][50][81]

鰭(ヒレ)

ラディオドンタ類の鰭の構造的バリエーション
A: 全幅を走る準平行の脈[注釈 10][35][6][47][19][20]
B: 前半を走る準平行の脈[注釈 11][76]
C: 前縁を走る枝分かれた斜めの脈[注釈 12][72][33][2][44][50][39]
D: 前縁を走る不規則な皺[注釈 13][4]

ラディオドンタ類の(flaps, lobes)は、左右に向けて張り出した、付属肢に由来と考えられる葉状の器官である[6]。通常、前の鰭の後縁は背面が後ろの鰭の前縁に覆われるように、前後でやや重なった部分がある[76][4][6]。また、それぞれの鰭の前縁もしくは全面が、往々にして一連の脈(strengthening rays[50], flap rays[19], tranverse rods[6], transverse lines[82], veins[72])が並んでいる[76][72][4][6][44][47][50][19][20]

通常は1体節つきに両腹側からの1対のみ発見されているが、一部のフルディア科の種類[注釈 14]は、付け根が前述の setal blades に隣接した、背側に配置される短い鰭(dorsal flaps)をもつことが分かる(この場合、腹側の鰭は「ventral flaps」として区別される)[6]。この発見により、ラディオドンタ類の腹側の鰭は葉足動物の葉足と真節足動物の内肢、背側の鰭と setal blades はオパビニアパンブデルリオンケリグマケラの鰭と真節足動物の外肢/外葉に相同と考えられるようになった(エーギロカシス#発見の意義を参照)[6]

胴部の前端、いわゆる「首」の部分は、原則として更に3-4対の退化的な鰭(reduced flaps[44][7], neck flaps[44], head flaps[4], anterior flaps[83], differentiated flaps[60])をもつ[76][8][19]アンプレクトベルアラムスコルディアの場合、この退化的な鰭の付け根には「gnathobase-like structures」(GLS)という顎基様の構造体が生えている[7][39]


尾部

一部のラディオドンタ類の尾部は尾扇(tail fan[72][4])という、特化した1対以上の尾鰭(tail fin[80], fluke[2], tail fan blade[19])に構成される部分がある。その中でアノマロカリスは2-3対[72][8][4][19]カンブロラスターは2対[19]フルディアシンダーハンネスは1対をもつことが分かる[20]。アノマロカリスの A. canadensis の場合、尾扇の間には1本の目立たない突起物がある[4]。アノマロカリスの未命名種 Anomalocaris sp. ELRC 20001、アンプレクトベルアライララパクスの尾部は、1対の尾毛(furcae[72])がある[72][50]。シンダーハンネスは、尾扇の直後には1本の剣状の尾刺(tail spine)がある[2]。なお、少なくともペイトイアの尾部に前述のような附属体は一切なく、単なる台形の突起である[8][47][20]

内部構造

ラディオドンタ類の眼(暗青色)、脳(水色)と消化管(黄色)

ラディオドンタ類の内部器官として、消化管[4][84][44][50]筋肉組織[4][5][47][50]、および神経系と思われる痕跡[5]が発見される。

消化管は節足動物の初期系統に含まれる葉足動物シベリオン類パンブデルリオンケリグマケラ)、オパビニアや早期の真節足動物(イソキシスフキシャンフィア類三葉虫など)のように特化が進み、中は体節の境目に応じて6対の丸い消化腺(中腸腺、digestive glands)が並んでいる[4][84][44]。消化管の左右の体腔は発達した複数対の筋組織があり、それぞれの鰭の付け根に対応していた[4][5][47][50]

神経系と思われる痕跡はライララパクスの化石標本 YKLP13305 の頭部から発見され、単純なはしご形神経系であったとされる[5]に含まれる神経節は前大脳(protocerebrum)1つだけで、前部付属肢の神経と複眼の神経(視神経)は、それぞれ前大脳の前部と左右に対応していた[5]。もしこの解釈は正確であれば(後述の議論を参照)、汎節足動物の中で、このような脳は通常の節足動物(脳神経節が3つで最初の付属肢が中大脳に対応する)や有爪動物(脳神経節が2つをもつ)とは明らかに異なる[5][14][85]、ただし、前部付属肢の神経が前大脳性であることは、ケリグマケラの前部付属肢、節足動物の上唇と有爪動物の触角に共通した特徴である[5][14][85][86]

生態

生理学

海底を泳ぐカンブロラスターの群れの生態復元図

ラディオドンタ類は全般的に遊泳性(nektonic)の動物であり、これは更に種類によって活動的な遊泳性(遠洋性、pelagic)から穏やかな遊泳底生性(nektobenthic、底生性に近い遊泳性)まで多岐していたと考えられる(後述)[19][20]。各胴節に並んだ setal blades呼吸器として広く認められており[28][4][6]、保存状態の良い化石に見られる皺は表面積を増したため、その呼吸効率を上げ特徴だと考えられる[6]。また、大小の同種由来の脱落した硬組織(前部付属肢甲皮)の化石が群れに発見される例が多く見られることにより、ラディオドンタ類は他の一部の節足動物(例えば三葉虫)のように、群れで海底に集まって脱皮を行ったことも示唆される[87][6][19][23]発生学の情報は限られているが、少なくともライララパクスの幼生は成体と同じ肉食性である[50]ことと、カンブロラスター甲皮の形は成長段階によって若干異なる[19][25]ことが、同種由来の化石の相違点に示される。

遊泳

ラディオドンタ類の鰭の動作予想(左上:両鰭と胴節の横断面、右上:上側方から見た左側の鰭、下:鰭の縦断面)

ラディオドンタ類の発達した筋肉を有する両腹側のは、遊泳用の器官として広く認められ[76][8][40][4][6][80]流体力学的解析では、これらのが大きいほど遊泳能力は高かったとされる[40]。また、これらの鰭に並んでいる一連の脈は、魚類に見られる鰭条のように支持物として機能し、遊泳の際に鰭の形と動きを維持・操作していたと考えられる[76][4][6]

これらの鰭が対になったオール状の付属肢である所は、他の遊泳性の節足動物鰓脚類など)や脊椎動物(一般的な魚類・海獣ペンギン首長竜など)の遊泳器官に共通だが、往々にして前後に重なった部分があり、胴節との連結部も前後に幅広かったため、前述の動物の遊泳器官のように、前後で動かして泳がせることには不向きであったと考えられる[76]。ラディオドンタ類の両腹側の一連の鰭は、むしろエイコウイカ類の体の両筋に広げた鰭のように、全体的に一面の鰭のように機能し、上下に波打たせて一連の渦を発生させることにより推進した方が効率的だと考えられる[76][40]。鰭が波打つ際に、上に向く鰭は水流を前上方から鰭の間に通らせて、下に向く鰭は重なった部分を閉じらせて、水流を下後方に押し込んでいたと推測される[76]。また、もしラディオドンタ類は左右の鰭の波打つる方向をうまく調整できれば、推進だけでなく、後退・方向転換・ホバリング(水中停止)もできたと考えられる[76]

一部の種類に見られる背側の鰭や尾扇に関しては、発達した筋肉を持たないことと、連動すると(上述の両腹側の鰭との)渦が重なって推進力が妨げられることにより、推進用の器官ではなかったと考えられる[6]。これらの特化した鰭は、むしろ遊泳の動作を安定させるために使っており[2][6]飛行機尾翼のように横安定性を維持し、鳥類尾羽のように急速な方向変更に用いられる[80]など、遊泳を補助する機能をもっていたと考えられる[6][20]

アノマロカリス科アノマロカリス(1枚目)とフルディア科ペイトイア(2枚目)、フルディア(3枚目)とカンブロラスター(4枚目)。それぞれ体型・甲皮・鰭などの発達具合の違いにより機動性が異なっていたと考えられる。

丈夫な体型と短い鰭をもつ多くのフルディア科の種類に比べて、流線型の体と発達した鰭をもつアノマロカリス科アンプレクトベルア科の種類はより機動性が高かったと考えられる[20]。一方、両者の特徴を足して二で割る(丈夫な体型に発達した鰭をもつ)ようなペイトイアの機動性は両者の中間程度であったと考えられる[20]。また、多くのフルディア科の種類に見られる巨大な甲皮は、形によって機動性が異なる(縦長い[注釈 15]ほど外洋性、横幅が広い[注釈 16]ほど底生性に適したとされる)[64]、防御に用いられる、もしくは摂食に関与する(後述)と考えられる[19][25]

食性

アノマロカリスの捕食行動を再現した生態復元模型(旧復元)

ラディオドンタ類は主に前部付属肢で餌を捕獲し、直後のに運んではでそれを咀嚼もしくは吸い込んでいたと考えられる[34][67][21][24]。かつては全般的に獰猛な肉食動物とされてきたが、ラディオドンタ類は必ずしもそうとは限らず、多様なニッチ(生態的地位)を占めていたと考えられる[18][6][21][22][50][43][19][23][25]。その生態は大まかに獰猛な捕食者(raptorial predator)・堆積物から餌を摂るもの(sediment sifter)・懸濁物食/濾過摂食者(suspension/filter feeder)という3つのカテゴリーに分けられる[22][19][25]。この多様性は食性に直結する前部付属肢だけでなく、甲皮・歯・・体型・などの特徴の相違点にも強く示唆される[67][6][21][45][22][19][53][64][23][24][25]

アノマロカリス科アノマロカリス(1枚目)とフルディア科ペイトイアの歯(2枚目)。それぞれ活動的な小動物と大型の底生動物を捕食するのに適したとされる。
獰猛な捕食性ラディオドンタ類のそれぞれの前部付属肢の動作予想。アノマロカリス科アノマロカリス(1枚目)は前部付属肢を幅広く上下に湾曲し[24]アンプレクトベルア科アンプレクトベルア(2枚目)は強大な内突起と先端の肢節を嚙み合わせ[24]カリョシントリプス(3枚目)は左右の付属肢全体を嚙み合わせたとされる[34]
フルディア科ペイトイア(1枚目)とフルディア(2枚目)の前部付属肢の動作予想。いずれも底生生物を捕食するのに適したとされるが、前者の方が能動的で、より獰猛だったと考えられる[23][24]
タミシオカリス科タミシオカリス(1枚目)とフルディア科エーギロカシス(2枚目)の前部付属肢。いずれも水中のプランクトンなどを濾過摂食できたとされるが、仕組みは異なっていたと考えられる[88]

獰猛な捕食者は、流線型の体と発達した鰭により活動的であったとされる、アノマロカリス科アンプレクトベルア科の種類が代表的である[89][24]。これらのラディオドンタ類の前部付属肢は触手[注釈 17][90]もしくは[注釈 18][34][91][92]で、明瞭な節間膜と長短を繰り返した頑丈な内突起により、巻き付けるように幅広く上下に湾曲し、もしくはペンチのように強大な内突起と先端の肢節を器用に嚙み合わせ、活動的な獲物を確保するのに適したと考えられる[61][8][34][93][43][23][24]。防御用の甲皮が小さかったことも、それに隣接する前部付属肢の可動域を維持するためであったと推測される[94][91][92]。レンズ数の多い複眼は頭部の前端付近に備わるため、獲物を探すための良好な視覚視野があったと考えられる[95][96]。その中でアノマロカリスの不規則で小さな開口部をもつ歯は、蠕虫状の柔らかい小動物を吸い込むのに向いたとされ[97][98]アンプレクトベルアラムスコルディアの顎基様の構造体は、他の節足動物大顎顎基のように獲物を咀嚼できたと推測される[91][39]

カリョシントリプスも前述の科と同様に捕食者であったと思われるが、仕組みは大きく異なり、内突起が内側に嚙み合わせた前部付属肢を顎のように左右に動かして、獲物を捕獲・切断していたと考えられる[34][48]

堆積物から餌を摂るものは、丈夫な体型と短い熊手状の前部付属肢をもつ大部分のフルディア科の種類に当てはまる[89][19][23][注釈 19][43][25]。これらのラディオドンタ類の前部付属肢は、バスケット状の立体構造と一連の頑丈な分岐をもつことにより、のように海底の堆積物を一掃してあらゆる生物や有機物を捕らえ[10][23]、内側に湾曲した複数の内突起により左右から餌を囲むこともできたと考えられる[24]。歯の大きな開口部により堆積物から広範囲の食物を捕らえ、前述の獰猛な捕食者に比べてより大型の底生動物まで捕食できたと推測される種類もある[98][10][24]。巨大な甲皮をもつ種類では、餌を探す度に突出した甲皮で堆積物を掘り上げたと考えられる[25]。なお、一部の種類[注釈 20]は前部付属肢に能動的な肢節と内側に嚙み合わせた棘もあわせ持つことにより、前述の獰猛な捕食者に似た摂食方法もあわせ持っていたと考えられる[23]

懸濁物食/濾過摂食者は、タミシオカリス科の種類全般[注釈 21][注釈 19][43]とフルディア科のエーギロカシスが挙げられる[99][88][注釈 22][89][10][注釈 23][24]。これらのラディオドンタ類の前部付属肢は、長い内突起の縁に密集した細い分岐が並んでおり、水中から0.5mmほど小さなプランクトンや懸濁物まで濾過できたと考えられる[99][88]。タミシオカリス科の種類は、前部付属肢の左右のたくさんの内突起で一面の濾過網を構成し、前部付属肢を上下に動かして餌を濾過したと推測される[99]。一方、エーギロカシスは前部付属肢の前後に並んだ内突起で多重の濾過機構をなし、水中に前進しながら餌を濾過していたと考えられる[88]


分布と生息時代

多種多様なラディオドンタ類が発見されるバージェス頁岩カナダブリティッシュコロンビア州、1枚目)と Maotianshan Shale中国雲南省、2枚目)

ラディオドンタ類は、主にカンブリア紀堆積累層から産出する化石標本によって知られ、中国[72][33][100][36][5][44][45][49][39][51][52][56][57][62]北アメリカアメリカ[101][102][103][47][43][42][104][20][105]カナダ[106][107][71][61][34][108][48][19][25]グリーンランド[109][18])、ヨーロッパポーランド[110][62]チェコ[111]スペイン[48])、オーストラリア[112][82]で発見されている。なお、これらの堆積累層の地質年代はいずれも既知最古(カンブリア紀第二期 - 第三期境目、約5億2,100万年前[1])の真節足動物の化石記録より晩期(最古でもカンブリア紀第三期以前には及ばない[78])であるため、節足動物の中で基盤的であるラディオドンタ類とそれに対して派生的である真節足動物の間には、中間的化石記録が欠如していることが示唆される[1]

既知最古[78][110]のラディオドンタ類 Peytoia infercambriensis の前部付属肢(化石解釈図)

2010年代以前では、カンブリア紀より晩期の堆積累層から確実にラディオドンタ類と言える化石が発見されなかったため、本群の生息期間はカンブリア紀に限定され、そこで絶滅したと考えられた。しかし2010年代以降では、エーギロカシスなどオルドビス紀前期のラディオドンタ類が発見され[113][6]デボン紀前期のシンダーハンネス[2]もラディオドンタ類として認められる[18][5][6][22][19]ことにより、本群はカンブリア紀を超えて生存していたと判明し、生息期間の記録が数千万年も延長された。

デボン紀シンダーハンネス(化石解釈図)

ラディオドンタ類が発見される堆積累層は次の通り[45][43][42][52][20][56][114][57]。情報が乏しい、またはラディオドンタ類としての本質が高い不確実性をもつ記録は「*」で示す。同定または独立種としての有効性が不確実の記録は「?」で示す。

カンブリア紀第三期(約5億2100万 - 5億1400万年前)
カンブリア紀第四期(約5億1400万 - 5億900万年前)
カンブリア紀ウリューアン期(約5億900万 - 5億450万年前)
カンブリア紀ドラミアン期(約5億450万 - 5億50万年前)
カンブリア紀ガズハンジアン期(約5億50万 - 4億9700万年前)
カンブリア紀ジャンシャニアン期(約4億9400万 - 4億8950万年前)
オルドビス紀トレマドキアン期 - フロイアン期(約4億8,540万 - 4億7,000万年前)